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 近年、モチベーションやエンゲージメントに関する調査結果が世界的に数多く報告されており、そしてそれらの中には、諸外国との比較において日本人のモチベーションの低さが話題となる記事が少なくありません。近年において、仕事に向かうモチベーションを高める要素には大きな変化があるのでしょうか。また、部下を持つ管理職がリーダーシップ行動を大きく変容させなければならないような環境要因の変化があるのでしょうか。その根拠となり得る要因をアップデートするため、インテレッジでは2020年から翌年にかけて、ビジネスパーソンを対象に約10年ぶりとなる第2回モチベーション調査を実施しました。

 2011年にも同様の調査(第1回調査)を行いましたが、結論から申し上げますと、要素間の順位が多少入れ替わったり、満足と不満足を感じる強弱の違いはあるものの、この約10年の中で大きな変化はありませんでした。ただし、今回の調査では第1回調査ではなかった「自ら創意工夫できる」、「部下・後輩の成長」の2つの要素を加えました。また、属性別の分析としては、年代別、性別、職種別に加えて役職別の比較も行ってみました。

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1.職務上における満足要素と不満足要素(調査結果全般)

 まずは、全体的な結果から見ていきましょう。今回の調査でもハーツバークの衛生理論のフォーマットに沿って集計しています。 

 下のグラフでは、0%のラインから右側への伸びが、その要素が満たされたときに強い満足を感じる度合を表し、左側への伸びが、その要素が満たされないときに強い不満に結びつく比率を表しています。右側への伸びが左側への伸びよりも大きいものが仕事上の満足をもたらす要因、つまり、動機づけ要因と言えます。

 一方、左側への伸びが大きいものは不満足要因、すなわち、衛生要因と見なすことができます。

動機づけ要因

動機づけ要因

 上図は右側への伸びが大きかった要素であり、動機づけ要因と言えるものです。本調査では、最も強い満足をもたらすものは「達成感」でした。これは、第1回調査同様であり、また、ハーツバークの調査とも一致しています。

 「外部承認」とはお客様から喜ばれたり感謝されたりすることで、「内部承認」は上司から褒められる、人事考課で良い点をもらえるなどと言ったことです。ご覧のようにその比率の差は歴然としています。このことは、外部接触の多い職務の方が満足度を得やすいことを意味していると言っても良いでしょう。

 新たに加えた「自ら創意工夫できる」は強い満足を感じる人が51%と高い比率を占めており、おそらく、3番目にある「仕事のおもしろさ」を形成する要素の一つと見ることもできるでしょう。やはり、仕事には自己決定の余地が必要と言えそうです。

 もう一つ新たに加えた「部下・後輩の成長」は38%と中位に位置づけられました。回答者の中には、部下や後輩のいないような立場の方も一定数いることを踏まえますと、この比率はかなり高いと見なしても良いかもしれません。

 最も関心の低かった要素は「組織業績」であり、左右の比率は第1回調査(不満足11%、満足14%)からほとんど変わっていません。依然として終身雇用の仕組みが根強く定着しているとは言え、現在の勤務先にしがみつづける意識が薄れてきていることが原因のひとつと考えられます。

 そして、第1回調査において最も関心の低かった「昇進」(不満足7%、満足9%)については、不満足11%、満足15%と左右への伸びがそれぞれ大きくなり、前述の「組織業績」を上回ることになりました。そもそも比率として高くないことから断定できないものの、昇進への意識は改めて高まってきている可能性があり、今後注視したいと思います。

 少々気になるのは、「高度な仕事を任される」の比率が左右共に比率が低いことです。満足比率は第1回調査の17%から伸びてはいますが、無難な仕事ですませたいという、高度な職務に対して尻込みする姿勢なのか、あるいは、高い目標を設定して達成できない場合に人事考課の成績を落としたくない、などという意識が働いている可能性が推測されます。

 なお、今回の調査結果は、第1回調査とほぼ同じ結果となったことはすでに述べましたが、左右の比率において強弱が生じることは当然であるとはいえ、グラフの形は比べていただけるとわかりますが、第1回調査と奇妙なほど似ています。したがいまして、当調査の結果のみならず、衛生理論自体に一定の普遍性があることを表しているのではないでしょうか。 

衛生要因

 右側よりも左側への伸びが大きかった要因、つまり、衛生要因は4つでした。

衛生要因

 4つの要因そのもの、そしてその順位は第1回調査から変わっていません。最も左側への伸びが大きかったのは「職場の人間関係」でした。しかし、左右への伸びはそれぞれ拡大しています。第1回調査では、強い不満と強い満足を表す比率がそれぞれ59%、45%でした。コロナ禍となって他者との接触が減少することにより、人間関係に煩わされずにすむ反面、人間関係を改善するための接触機会(職場での雑談やランチ、コーヒーブレイク、飲み会、レクレーションなど)も失われてしまったことが影響しているのかもしれません。

 以下、「上司との関係」、「職場環境」、「昇給」と続いています。これら衛生要因のグラフについても第1回調査と同じ形をしています。ただし、4つの要因いずれについても左右への伸びは拡大しています。

 ところで、「昇給」については、第1回調査よりも関心が高まったとは言え、やはり、高いとは言えない比率です。企業等の多くの組織が採用する成果主義的な人事管理制度では、主に「金」と「地位」がモチベーションの源泉として考えられていることが多いですが、「昇給」、「昇進」のいずれについても関心が高いとは言えず、そうした制度のみによって意欲向上を図ることは難しそうです。

 さて、本データから、管理職として部下のモチベーションを高めていくためには次のようなポイントに留意することが必要であると言えます。なお、第1回調査とほぼ同じ結果でしたので、ポイントとしてもほぼ同じ内容となります。

  • 職務設計においては、効果や効率の追求のみならず、働く側にとって仕事そのものをおもしろくしていく発想が必要である
  • 自ら創意工夫することを促し、自己決定の余地を大きくする
  • 仕事はある程度の困難さを伴っていることが望ましいことから、目標の難易度は頑張れば手の届く水準に設定する(簡単な目標では「達成感」が得られない)
  • 顧客(利用者)からの声は従業員間において共有できる仕組みがあることが望ましい
  • 業務遂行の合理性や成果にばかりとらわれて、職場の人間関係を軽視してはいけない

2.世代別に見たモチベーション源泉

 ここからは、属性別に見た場合、どのような違いがあるのか見ていきましょう。
まずは、世代別の分析です。全体の平均よりも5パーセンテージポイント高い部分を緑色に、反対に全体の平均よりも5パーセンテージポイント低い部分をオレンジ色にしてみました。

表1

20代以下

 20代において、他世代に比べて関心が高いのが、「内部承認」(61%)、「意見が採用される」(45%)、「成長感」(55%)、「職場環境」(36%)、「上司との関係」(31%)、「昇給」(29%)でした。特に最も差が大きいのが「成長感」です。自らの仕事経験やOff-JT、OJTを通じて成長感を感じられるようにすることは人材の定着の観点からも優先度が高そうです。また、上司から褒められる、高く評価される、と言った「内部承認」も他世代よりも大幅に高くなっています。「意見が採用される」も関心の高い要素ですが、これは「内部承認」の一種と捉えることも出来ます。「内部承認」、「意見が採用される」については若年層ほど関心が高いことに注目する必要があります。

 一方、他世代に比べて関心が低いのは、「自ら創意工夫できる(42%)」、「部下・後輩の成長(17%)」、「高度な仕事を任される(17%)」の3つでした。部下を持つ立場となっておらず、後輩も少ないというポジションであれば「部下・後輩の成長」に関心が低いのは当然として、「自ら創意工夫できる」、「高度な仕事を任される」の2要素が低くなっているのはなぜでしょう。仮説としては次のようなことが考えられます。

 (1)創意工夫をしたり、高度な仕事をこなしたりするのに十分なスキルを身につけていない回答者の割合が高い。
 (2)20代では作業的な仕事が中心となっていて自己決定の余地が狭く、まだ創意工夫できることの喜びや高度な仕事を担当することの良さを認識できていない。

 (3)自ら考えるよりも上の言うとおりに仕事をしている方が楽である。

 (4)難易度の低い仕事を中心にする方が楽であり、高度な仕事など任されたくない。

(3)と(4)は達成感や成長感、仕事のおもしろさへの関心の高さとは矛盾しているように見えます。自らの考えで創意工夫できることに仕事のおもしろさがあるように思われますので、この点のフォローが管理職にとって重要なポイントであるかもしれません。担当職務の改善策を考えさせることも創意工夫を促す効果があります。
 もっとも、20代に限らず、全世代において「高度な仕事を任される」ことの関心は低く、挑戦意欲が感じられない点が少々残念です。ちなみに第1回調査では、「難易度の高い仕事を任せる」は若い世代ほど関心が高く、20代では36%でした。他世代ではいずれも比率が高まったことに対し、20代では大きく低下しており、この点は第1回調査からの大きな変化です。

30代

 全体平均よりも関心が高くなっているのが、「意見が採用される」(42%)、「成長感」(43%)、「上司からの相談」(32%)、「昇給」(31%)、「昇進」(20%)、「組織業績」(18%)でした。「上司からの相談」で一番関心が高くなっていたのがこの世代です。上司としては時々部下に相談することで信頼のシグナルを送る効果がありますし、採用すべき意見は採用する姿勢を忘れないようにすることが大切です。
 一方、他世代よりも関心度が低かったのは、「職場の人間関係」(49%)、「社会貢献感」(32%)の二つでした。

40代

 回答者の占める割合が一番高かったのが40代(38%)でしたので、回答傾向は全体の傾向と大きく変わるところは少なく、唯一、「困難の克服」(44%)のみが全体よりも関心の高かった項目です。もちろん、会社にもよりますが、最も高度な職務に当たっている世代であるのかもしれません。逆に言えば困難な課題への克服能力が低ければストレスにもつながるでしょうから、この世代を部下に持つ上司としては問題解決を支援する、あるいは、問題解決能力の向上を支援することが重要です。また、同時に、本人が困難に直面していることに対し寄り添う気持ちを示すことについても心がけたいところです。
 なお、顕著な違いではありませんが、「社会貢献感」(41%)は30代以下の回答者よりも高めに出ています。したがって、時にはその仕事がいかに社会の役に立っているのかを再認識させるような機会を持つことも有効かもしれません。

50代以上

 唯一、「部下・後輩の成長」(44%)が他世代より高く、「内部承認」(36%)や、「意見が採用される」(28%)ことの効果は低下していきます。特に「成長感」(24%)以下の下位項目のほとんどで関心が低くなる傾向が認められます。この世代の部下においては、後進の指導育成を主要な役割の一つとして担ってもらうことが有効であるように思われます。
 また、40代同様、「社会貢献感」(39%)は顕著な違いではありませんが、30代以下の回答者よりも高めに出ていることは注目して良いでしょう。

 なお、要素別に見ると「達成感」、「外部承認」、「仕事のおもしろさ」、「組織貢献感」については世代間の大きな違いは見られませんでした。最初の3項目はいずれの世代においても関心が高く、普遍的な価値観と見ても良いでしょう。
 

 本データから、モチベーションを高めると言う観点において、部下への接し方を世代別にまとめてみますと次のような点がポイントになるでしょう。

  • 20代以下の部下に対して
    • 評価すべき点は評価し、有能感を高めていく
    • 意見を尋ねて採用すべきは採用する。また、意見を言いやすい風土づくりも重要
    • OJTを意識的に行うことはもとより、Off-JTや自己啓発など学習の機会を与え、成長感を高めていく
    • 自らの考えで職務に当たることを促し自己決定の余地を高める
    • 担当職務の改善策を考えさせる
  • 30代の部下に対して
    • 時々部下に相談する
    • 意見を尋ねて採用すべきは採用する。また、意見を言いやすい風土づくりも重要
    • OJTを意識的に行うことはもとより、Off-JTや自己啓発など学習の機会を与え、成長感を高めていく
  • 40代の部下に対して
    • 問題解決を支援する、また、問題解決能力の向上を支援する
    • 本人が困難に直面していることに対し寄り添う気持ちを示し、受容感を高める
    • 自組織の製品・サービスがいかに社会を支えているのか再認識できるような機会を設ける
    • 顧客や地域からの感謝の声を共有することも有効
  • 50代以上の部下に対して
    • 後進の指導育成を主要な役割の一つとして担ってもらう
    • 自組織の製品・サービスがいかに社会を支えているのか再認識できるような機会を設ける
    • 顧客や地域からの感謝の声を共有することも有効

3.性別に見たモチベーション源泉 

 ここでも、全体の平均よりも5パーセンテージポイント高い部分を緑色に、反対に全体の平均よりも5パーセンテージポイント低い部分をオレンジ色にしてあります。本調査では女性の比率が28%と少数派ですが、ここでは女性の傾向を中心に見ていきます。

表2

 男性に比べて5パーセンテージポイント以上にわたって比率が高かったのは、「外部承認」(75%)、「仕事のおもしろさ」(66%)、「職場の人間関係」(62%)「成長感」(40%)、「職場環境」(34%)、「上司との関係」(29%)の6項目でした。「内部承認」(48%)は4パーセンテージポイントの差ですが男性よりも比率が高くなっています。

 一方、男性よりも比率が低かったのが「自ら創意工夫できる」(47%)、「高度な仕事を任される」(18%)、「昇進」(11%)、「組織業績」(9%)の4項目でした。

 やはり、第1回調査と大きな違いはありません。女性の場合、決して仕事そのものを軽視しているわけではないにせよ、男性に比べると、顧客など外部との関係、職場の人間関係、上司との関係といった関係性を重視していることがわかります。「仕事のおもしろさ」というのもそうした関係性を含めてのことかもしれません。また、「高度な仕事を任される」、「昇進」、「組織業績」への関心の低さからは、仕事や会社組織から一定の距離を置きたい心理がうかがえます。

 なお、ここでは、「高度な仕事を任される」を軸として他の要因とのクロス分析を男女別に行ってみました。

表3

 「高度な仕事を任される」は全体として22%と低い比率なのですが、この項目を重視する人を母数とした場合、他の3要因を重視する人の比率は全体のそれよりも高くなっています。例えば「達成感」は全体で重視する人は76%であったのに対して「高度な仕事を任される」を重視する人では87%に高まっています。同様に「仕事のおもしろさ」は61%から74%へ、「成長感」は34%から53%へと高まっています。そしてこれらの傾向は女性において顕著なのです。女性の場合、「達成感」では76%から実に93%へ、「仕事のおもしろさ」では66%から77%へ、「成長感」では40%から61%に高まっています。全体的には高度な仕事に対する忌避感があるように見受けられますが、一旦高度な仕事に取り組んで一定の成果を得ることが出来るのであれば、達成感と仕事のおもしろさ、成長感の獲得を通じてモチベーションを上げやすくなるという仮説が成り立つように思われます。それは男女ともに言えることですが、特に女性においてその効果が強い可能性があるのです。

 本データから、モチベーションを高めると言う観点において、女性の部下がいる場合の留意点をまとめてみますと次のような点がポイントになるでしょう。

  • 「関係性」が大きなポイント
    • 外部承認が重視されるため、顧客からの感謝などの声はタイムリーに共有すること
    • 職場内の人間関係を点検し、良好なコミュニケーションがとれるような仕組みをつくること。部下同士の人間関係は、上司が把握できないことも少なくない。部下からの情報や言動などから、人間関係の状況を意識的に観察して行く必要がある
    • 褒める、認めるといった承認行動を意識的に行うこと。仮にその部下の職務遂行レベルがあまり高くない状況であったとしても、成長している事実があるならばそれを認め、評価を本人に伝えていく。絶対的能力の高さのみならず、相対的な伸張度についても適宜評価することが必要
  • 成長を支援する
    • 時には保有能力よりもやや高いレベルの仕事を割り当てて時折フォローすること
    • 高度な仕事の割当においてはノウホワイ(仕事の意義)を明確に示すこと
    • OJTを意識的に行い、ノウハウを伝授すること
    • 個別面談の機会を設けて能力を引き出すようなコーチングを行うこと
    • 外部研修など学習の機会を与えること
  • 職場環境の改善
    • 上司や男性では気づいていないような環境上のマイナス要因に気を配り、必要に応じて改善を施すこと
    • 温度や湿度、照明などは女性において敏感な傾向にある
    • トイレや更衣室など男性が立ち入れないような場所に衛生上の問題などがないか
    • その他、騒音、振動、物理的なバリアーなど改善すべき点はないか
    • 休憩時間にリラックスできる環境となっているか

4.職種別に見たモチベーション源泉

 全体の平均よりも5パーセンテージポイント高い部分を緑色に、反対に全体の平均よりも5パーセンテージポイント低い部分をオレンジ色にしてあります。 一見して目立っているように、営業・渉外・販売・サービスの職種では、明らかに他の職種と違う傾向が見て取れます。反対に、事務・企画職では、全回答者中この職種が最も多いことから全体の比率との大きな乖離が生じにくいとは言え、特に比率の高い部分がありません。技術職においても、比率が高いのは「自ら創意工夫できる」のみです。以下のデータからは職種によってモチベーション源泉が大きく異なることが見えてきます。

表4

事務・企画職

 「部下・後輩の成長」(32%)、「成長感」(29%)、「職場環境」(23%)、「組織業績」(8%)において他の職種よりも低くなっており、これらいずれの項目においても、営業・渉外・販売・サービスとは大きな差があります。「成長感」は第1回調査と同様、4職種の中では最も低く、類似項目の「部下・後輩の成長」についても同様です。事務・企画の仕事においてもAIやRPAの導入など、仕事の進め方に大きな変化が見られることから、新たなスキルを獲得する場面は決して少なくないように思われる反面、他職種と比べると職務に変化は少なく、成長を実感できる場面が限定されると解釈できます。

 「職場環境」の低さは、満足要素よりも不満足要素に目が向きやすくなることが原因なのかもしれません。この職種は、オフィスで過ごす時間が他職種よりも長くなりがちで、変化の少ない空間において長時間過ごすことのマイナス面が影響すると考えられます。特に、自然光に乏しく閉塞感が強い、息抜きを出来るスペースもないような職場であればその傾向は強まるでしょう。まさにそのことは、「職場環境」が衛生要因となったことと整合しているようにも思われます。

 「組織業績」(8%)は全体としても低い比率ですが、それはこの職種において顕著です。特に事務職では、自分の業務が直接的な結果や成果として現れにくいことが影響していると考えられます。

技術職

 唯一、「自ら創意工夫できる」(56%)のみが高めになっています。自らのスキルレベルが直接的に仕事の結果に即座に反映されやすい職種としての特性によるものと解釈できます。

 一方、「内部承認」(40%)が低いのは、技術職の成果物がソフトウェアのコードや技術的な改善などの専門的な領域になるため、その専門的知識を持たない上司や同僚には見えにくい場合があるためと考えられます。また、技術職の仕事においてはプロジェクトやシステム、設備の安定稼働など、問題が発生しなかった場合にはさほど注目されず、反対に問題が発生した際にはその解決を要求されながらも、その過程や努力が周りからは見えにくいといったことが影響しているのでしょう。

 「成長感」(30%)がさほど高くないのは第1回調査と同様でした。技術的スキルの向上を目指す職種としては少々意外ですが、原因として考えられるのは、仕事によっては継続的なメンテナンスなど同じような職務の繰り返しになる場合があること、その一方でIT分などでは高度な技術が続々と開発され、知識のアップデートが容易ではないこと、実際にスキルアップしていたとしても(内部承認と同様)上司や同僚に専門性が理解されないと周囲からの評価が得られないことです。

 「昇進」(10%)についての関心が最も低いことも特徴のひとつです。マネジメント職位に就くよりも専門性を重視するキャリア・アンカーによるものであり、納得のいく数値のように思われます。

営業・渉外・販売・サービス

 「外部承認」(82%)が突出して高く、直接顧客と接して評価されたり感謝されたりする機会の多い職種ならではの傾向です。反面、「社会貢献感」(27%)は4職種の中で最も低く、社会全体というよりは目の前のお客様に喜んでもらえることがモチベーション源泉として勝っているようです。「仕事のおもしろさ」(68%)と「自ら創意工夫できる」(60%)も高い比率であり、営業や渉外職であれば通常一人で行動することが一般的であり、自己決定の余地が大きいことが大きな要因と思われます。「職場の人間関係」(69%)は第1回調査時の33%から大きく増加しました。コロナ禍で対面の外部接触が避けられていたため、社内に留まることが多くなったことが原因として考えられます。

 「昇給」(31%)、「昇進」(25%)、「組織業績」(38%)の3要素は全体としての比率は低いのですが、この職種においては決して低くはありません。第1回調査でも同様のことを書きましたが、一般的に、金銭報酬や地位による動機づけは効果が限定的であるとは言え、営業職においては必ずしもそうではなさそうです。また、「昇進」への関心の高さは、特に営業職において折衝における一定の地位的優越性(ないしは地位的劣位の回避)を求めるという背景があるのかもしれません。「組織貢献感」(43%)についても高めです。

専門職

 専門職と言っても多岐に渡りますが、看護師、保健師、薬剤師、保育士、消防士などでした。営業・渉外・販売・サービス同様に外部接触の多い仕事であることから、やはり、「外部承認」(74%)が高くなっています。技術職とは反対に「内部承認」(52%)が高くなっているのは、技術職が組織内において個業化(分業化)している事に対して、これら専門職では同様の職務を多くのメンバーがチームとして担当していることが違いとなって現れているのでしょう。同様の職務を多くのメンバーが担当していると言うことは相互に評価しやすい事になります。「成長感」(46%)は4職種の中で最も高く、スキルアップの実感を得やすい職種であると言えそうです。

 一方、「自ら創意工夫できる」(46%)は4職種の中で最も低く、仕事の手順が比較的明確に、(あるいは厳格に)定められており、自己決定の余地が小さいことが特徴です。「昇進」(16%)は全体の比率(15%)とほぼ同率でした。元々低い比率ではありますが、技術職とは違い、必ずしも昇進に関する関心が他職種に比べて極度に低いというほどではないようです。

 さて、本データから得られる職種別の留意点は次のように整理できます。実際には組織内の制度上の制約もあるため、管理職におけるリーダーシップのみによってモチベーションの向上を図ることは難しい面もありますが、可能であれば次のような取り組みが望まれます。

  • 事務・企画
    • 職場環境の改善:採光やデザイン、レイアウトに工夫を加え明るく開放的な空間づくりを行うこと。仕事の合理性を追求するばかりではなく、息抜きができる空間、メンバー同士の交流を図ることの出来る場も重要
    • ジョブ・クラフティングの実施:仕事の意義を自ら見いだすために、①その仕事の本来的な意味(他者への貢献、仕事そのもののおもしろさなど)を再定義し、②その仕事を通じて得られる関係性に着目し、③仕事の進め方に工夫を加えること。これらにより仕事のやりがいを再度見つけ出すこと
    • 極端な分業の見直し:個業化を避けチームとして相互に支え合う職務割当をおこなうこと(参考:過度の専門化による弊害
  • 技術職
    • 職務拡大:同じ職務を継続し続けるのではなく、可能であれば新たな職務の機会を与えること。新たな職務の機会はスキルや経験を広げる可能性がある
    • スキルアップの奨励による職務充実:制度上可能であれば自己啓発支援制度や外部セミナーなどを利用して学習できる機会を提供すること。特に新たな技術に後れをとらないように気を配ること
    • ネットワークの構築:同職種による組織内外のネットワークを構築、または、既存のネットワークに参加してもらうことにより知識や経験の共有、相互の助言やフィードバックを通じて成長を促進する
    • 適切な評価・承認:管理職自信、高度ではなくとも、一定の専門的知識を身につけ、メンバーの職務能力を適切に評価したり、日常のやりとりにおいても承認欲求に応えたりすること
  • 営業・渉外・販売・サービス
    • 自己決定感の維持・拡大:現在与えられている権限を縮小しないようにし、意欲が高いメンバーにはあまり口出ししないこと。与えられている権限が少ないようであれば権限を委譲して自己決定の余地を拡大すること
    • 後進への指導を委任:新人、若手への指導役を担ってもらうこと
    • 貢献に対する適切な評価・承認:メンバーが一定の結果を出せているのであれば貢献度や職務能力を適切に評価したり、日常のやりとりにおいても承認欲求に応えたりすること
    • 意見の採用:時々メンバーに相談し、採用できそうな意見を取り入れること
  • 専門職
    • 感謝の声を共有:顧客・利用者から感謝の声が伝わった場合、感謝の対象となった本人に伝えること、あるいは、職場で共有すること
    • 相互承認の促進:上司から部下へ承認を伝えること以外にも、ミーティングの場を利用して相互に良かった点を確認し合うなど、認め合う風土づくりを心がけること
    • 学習の機会の確保:継続的な知識更新が要求されるため職場内研修を定例化するほか、外部セミナーへの派遣を行うこと

5.役職別にみたモチベーション源泉

 最後は役職別の分析です。

表5

一般社員・職員

 各項目への関心の高さが、年代別の「20代以下」、もしくは、「20代以下」と「30台」の平均と概ね一致しており、やはり、「内部承認」(52%)と「成長感」(44%)が高めに出ています。「部下・後輩の成長」(21%)が低いのは部下を持たない立場上当然として、「社会貢献感」(32%)は他の階層と比較して低くなっています。社会貢献感は、業種や職種にもよりますが、通常、日々の仕事の中で頻繁に実感できる要素ではないように思われます。社会貢献の感覚は、毎日、仕事を終える度に得られるものではなく、長い年月に渡って仕事を継続していく内に、時に社会へ貢献している事実に気づかされることがある、というのが実態ではないでしょうか。とすれば、若い世代(≒一般社員・職員)では社会貢献感を得られる経験はまだ少ないということになるでしょう。この要素では、40代以上において高めの比率であり、30代以下において低い比率になっているのはそのような経験の多寡によるものと考えられます。

管理職

 注目すべきは、自らの「成長感」(28%)が一般社員・職員の44%と比較して低くなっていることに変わって、「部下・後輩の成長」(44%)が高くなっている点です。管理職における仕事の喜びのひとつには部下の成長が上げられそうです。

 近年は昇進に対する意欲が全体的に低めです。管理職になる前には部下・後輩の成長に喜びを感じられることの実感は少ないと思われます。したがって、管理職候補者にはその喜びを伝えることにより、昇進への抵抗感を幾ばくか低下させる効果が期待できるかもしれません。

役員・経営者・理事者

 一見してわかるように、強い満足を感じる要素が一般社員・職員、管理職と比べて明らかに多くに渡ることが確認できます。対象となるサンプル数は46と少なめですが、それぞれの内容については説明の必要がない、誰が見ても納得のいく結果のように思われます。「組織業績」(52%)に強い満足を感じる比率が高く、一般社員・職員、管理職において全項目中最も関心が低いこととは対照的です。

さて、本データから得られる役職別の留意点は次のように整理できます。なお、役員・経営者・理事者のモチベーション向上については、ここでは省略します。

  • 一般社員・職員
    • 評価すべき点は評価し、承認欲求に応える
    • OJTを意識的に行うことはもとより、Off-JTや自己啓発など学習の機会を与え、成長感を高めていく。中堅社員であれば、自らの考えを引き出せるよう、OJTよりもコーチングを優先する
    • 「社会貢献感」は、経験の浅い内は実感しづらいため、管理職として経験した、顧客や社会への役立ちの感覚を語って聞かせる。なお、社会への役立ちの主語が「私は」では自慢話にとられることもあるので、「この仕事は」を主語にするのが望ましい
  • 管理職
    • あなたが部長等の上級管理職であれば、課長以下の管理職、あるいは、管理職候補者に対して部下の成長の喜びを伝える
    • 「達成感」についても自らのそれだけでなく、チームとしての成果に対する達成感についての意義を理解させる

調査の概要

■調査の概要
調査期間:2020年6月~2021年12月
調査対象者:「モチベーション」、「リーダーシップ」に関する研修を受講した参加者
サンプル数:1394名
調査方法:webフォーマットへの入力。一部書式による記入提出
男性71%
女性28%
事務・企画職51%
技術職18%
営業・渉外・販売・サービス8%
専門職15%
その他の職種7%
20代以下 13%
30代   20%
40代   38%
50代以上 29%
管理職以上の役職者68%

(初回掲載2022/12/25 追記2023/07/10)

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