リーダーシップや部下との関係性に関する議論の中に、部下は褒めて伸ばすべき、という論調があります。人間は人から褒められることを快く感じます。褒められることが気持ちよいので、次回もまた褒められるようにがんばろうという人々の思考に適応的なリーダーシップ行動をとるべきという考え方は、一見筋が通っているように思われます。確かに、褒められるということは、承認欲求が満たされるということでもありますので、褒めることは、No.5-2「衛生理論の活用」においても指摘したとおり、リーダーシップ行動において手っ取り早く使える動機づけ要因であると言えます。
ところで、職務上において褒める対象となるものは何なのかというと、主に三点を挙げることができます。それは、成果、能力、行動です。それらのいずれかが高い水準にあれば褒めてあげると言うことになるわけですね。これらの内、成果について考えてみましょう。マクロ的に見れば、企業の業績は長らく低成長にとどまっています。売上高が前年割れを続ける企業も少なくありません。公的セクターにおいても、目標達成には困難を伴っているのが実態です。ということは、世の中の多くの人は目標を達成できない状況にあることになります。つまり、こと成果に関して言えば、高く評価される局面は限定されており、むしろ、現状を否定しなければならない場面の方が多いということです。
目標を達成できていないのに、褒めることを推奨する論調に違和感を覚える人は少なくないでしょう。出来ていないのに出来ていると褒めてしまえば、その人の成長を阻害する可能性すらあります。確かに人は他人のことを否定するよりも肯定する方が心理的には楽であると思います。他者否定は人間関係に葛藤をもたらすからです。部下の成長を促す観点から、私はむしろ、他者をうまく否定する能力こそが管理職には求められていると考えています。(初回掲載 2012/01/06)
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