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No.5-2 衛生理論の活用

 No.5-1「働く人々の欲求」では、一般的な動機づけ要因を挙げましたが、厳密に動機づけ要因を考えてみる際に有効な考え方があります。それは、動機づけ研究として有名な、ハーズバーグの衛生理論です。同理論については、ウエブ上の様々なサイトにその内容が掲載されていますので、ここでは詳述を避けます。簡単に言えば、次のようなことです。

 人間の職務に対する態度を決定づける要因には、衛生要因と動機づけ要因というものがあります。衛生要因が満たされていても、それは不満を抑制する効果はあるものの、積極的な執務態度を引き出すには至らず、積極的な執務態度を引き出すためには動機づけ要因が必要である、というのが衛生理論の骨子です。衛生要因と動機づけ要因は、それぞれ、次のような要素からなっています。

動機づけ要因衛生要因
 達成 組織の方針と管理
 承認 監督のあり方
 仕事そのもの 監督者との関係
 責任 労働条件
 昇進 給与
 成長 同僚との関係

 ハーズバーグによって1950年代後半に行われた、200人の技術者と会計士を対象に行なった調査では、適切な方針が提示され、適切な管理が行われたとしても、それは当たり前のことで、従業員のモチベーションが高まる効果はほとんどなく、むしろ、不適切な方針が示されたり、不適切な管理がなされたりすると、多くの人が極端な不満を感じるというデータが得られました。一方、仕事を達成できたときには大いに満足を感じますが、仮に達成できなかったとしても、そのことに極端な不満を感じる人の割合は少ない、という結果も得られました(グラフ)。

 さて、管理職として、この理論に基づいた動機づけ行動を行うとすれば、どのようなことが考えられるでしょうか。まず、働きかけるべき要因は、管理職としてコントロール可能なものでなければなりません。ですから、「労働条件」や「給与」、「昇進」は、会社の制度や仕組みなどによって規定されている範囲が広く、上司が人事考課などによってある程度間接的な影響を与えられる部分があるとはいえ、管理職自身が直接に変更できるものではないため、そうした制度的要素は除くことになります。上記の要因の中で、手っ取り早く実行できることは「承認」でしょう。部下の働きぶりを正当に評価し、認めてあげると言うことです。
 また、「達成」、「仕事そのもの」、「責任」、「成長」といった要因についても働きかけていきたいところです。つまり、可能な限り、やりがいがあって、達成感があり、さらには、自己成長を感じられるような仕事を割り当て、権限委譲をして責任を持たせるということです。もちろん、職場の中には地味な仕事も多く、必ずしも、やりがいや成長に繋がる仕事ばかりがあるというわけではありませんので、現実にはそうした割当てが困難なケースが多いとは思います。ただ、日本人のヤル気が低下していると言われている昨今においては、基本的にそうした認識の基で職務の設計や割当てを行っていくことで、やりがいのある職場づくりを志向することの重要度が増しているように思えてなりません。

 ところで、この衛生理論では、「給与」は衛生要因に分類されています。これまで多くの企業が賃金システムによって従業員の動機づけを図ろうとしてきましたが、衛生理論に基づいて考えれば、カネで人のやる気を高めることは出来ない、と言うことになってしまいます。カネとヤル気の関係については、別途、改めて考えてみることにしましょう。(初回掲載 2009/10/01)

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