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No.1-8 メンバーの誇りを支えるパーパスのレベル感

 組織として明確にパーパスを打ち出していくことの重要性が改めて強調されるようになってきましたが、一般的には、経営理念や社是、あるいは、バリュー、ミッションなど、その表現の仕方には様々なものがあります。規模の小さな組織ほど、それらが明文化されていないケースが多いのですが、人材確保の困難さが増している現在、これでは優秀な人材の獲得は難しいでしょう。有能な人材ほど、組織の存在意義に敏感であると考えられますし、理念を制定していない組織に参加しようとする人は、そもそも、社会貢献などに無頓着であると考えられるためです。人材の確保、定着促進のためには、まずは、明確なパーパスを打ち出すことが最優先です。かといって、あまりにも大袈裟すぎる経営理念では、社員の心に響くことはなく、単なるお飾りになってしまいます。

 では、敏感な人材を惹きつける、あるいは、現在所属しているメンバーの誇りを高めると言う観点からは、どのようなレベル感が妥当なのでしょうか。ここでは、誰もが想像しやすい職業の例として、飲食業を例に考えてみましょう。

  • 調理担当者のパーパス
    • 形良く食材をカットする
    • 上手に炒め、上手に味付けする
    • 綺麗に盛り付ける

 これらは、仕事の目標と言えなくもないですが、極めて作業レベル的に過ぎます。

 次のホール担当者の場合はどうでしょう。

  • ホール担当者のパーパス
    • 挨拶、言葉づかいに気をつけて接する
    • 注文内容を正確に聞き取る
    • 会計を正確に行い丁寧にお見送りする

 これらもやはり作業レベル的であって、パーパスと言うには少々レベルが低いと言えるでしょう。

 次のケースはどうでしょうか。

  • 調理担当者のパーパス
    • お客様に美味しい料理を味わっていただく
  • ホール担当者のパーパス
    • お客様に快適に過ごしていただく

 少し目標のレベルが上がっていくらか使命感を得られなくもありません。しかし、仕事の直接的な目標であるとは言え、当たり前過ぎて、まだ、誇りに繋がるという感覚は持ちづらいのではないでしょうか。では、もう少しレベルを上げてみましょう。

  • 調理担当者、ホール担当者、共通のパーパス
    • 美味しい料理とおもてなしで心地よいひとときを提供する

 今度は、前述の表現よりも使命感が高まるような気がしますし、調理担当者とホール担当者の使命が融合してチームとしての目標意識が醸成されているように思えます。しかし、まだ、誇りを高めると言うにはありきたりで、物足りなさがあります。

 では、次のケースはどうでしょうか。

  • お店としてのパーパス
    • 食を通じて地域社会の“やすらぎ“に貢献する

 大分、使命感の高まる、心に響く表現になったのではないでしょうか。担当者自身の直接的な仕事目標の上位概念を表しており、そもそも何のために仕事をしているのか、その意義や本来的な目的を明確に認識しやすい表現になっています。これくらいのレベル感であれば誇りを高める効果がありそうです。

 では、さらにレベルを上げてみましょう。

  • 会社のパーパス
    • 社員一丸となって食文化の発展を追求し、社会の幸福に貢献する

 いかがでしょうか。文章的には格好良いのですが、これでは大袈裟すぎて逆にしらけてしまいますね。大仰すぎるパーパスは社員にとっては実感を持ちづらく、自分事として捉えることができません。正に絵に描いた餅になってしまいます。よほど、経営資源の規模が大きく、広く社会へ影響を与え得る組織であればともかく、中堅以下の組織、特に中小企業では現実感のない表現であると言えるでしょう。しかし、実際のところ、経営理念を上記のような表現にしているケースは意外と多いものです。中小企業の経営理念においても「○○を通じて社会に貢献する」という表現を実にたくさん見てきましたが、中小企業が社会全体に貢献できるわけがないのですから、具体的にどのような分野で貢献していくのか、現実的な線引きが必要であると思います。

 経営理念は組織にとっては憲法のようなものですから、あまりコロコロと変えるものではありませんが、社会や顧客、従業員の価値観の変化にあわせて表現し直すことは必要なことであろうと思います。経営者の方は、一度パーパスを点検して見るべきでしょう。はたしてそれは、従業員の心を打つものであるか、多少なりともワクワク感があるか、あるいは、自組織の力量に見合っているのか。もちろん、顧客や社会への役立ちが表現されていることが絶対条件です。

 なお、中間管理職においては、会社全体のパーパスを自らの権限で見直すことはできませんが、チームとしてのパーパスをメンバーと共に改めて設定する機会を持つことは非常に有意義であると思われます。それは、メンバー自身の目的意識を高め、自らの仕事の意義を見つめ直す機会になることでしょう。

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