No.5-2「衛生理論の活用」の項において述べたことですが、衛生要因とはそれが満たされているからといって積極的な執務態度を引き出すには至らないと考えられている要因です。しかし、反対にそれが失われた場合には意欲の減退に結びつきやすい要因でもあります。具体的な衛生要因の例としては、「組織の方針と管理」、「監督のあり方」、「監督者との関係」、「労働条件」、「給与」、「同僚との関係」といったものがありました。この項を読んでいるあなたにも上司がいると思いますが、もし、あなたが上司の指示や方針に従わない、つまり、上司のリーダーシップを認めないとすれば、これらの衛生要因に何らかの悪影響が及ぶことを予測するのではないでしょうか。
例えば、上司に逆らえば、次のようなことが懸念されます。
- やりたい仕事がまわってこなくなる(組織の方針と管理)
- これまでよりも上司の監視的姿勢が強まり厳しく成果を問われることになる(監督のあり方)
- 上司との人間関係が悪化する(監督者との関係)
- 有給休暇の申請が通りづらくなったり、望まない部署へ配属を変えられたりする(労働条件)
- 人事考課が厳しくなり、賞与や昇給にマイナスの影響がある(給与)
- 同僚から職場の秩序を乱す人間として見なされ、結果的に同僚との人間関係も悪化する(同僚との関係)
などといったことです。
よほどのことがない限り、多くの人が上司のリーダーシップに調和的な行動をとるのは、そうした状況を避けようとすることが一因であると考えられます。ということは、リーダーシップを発揮するためには、上司のリーダーシップに調和的でない行動をとった場合のマイナスの影響を予測しやすい状況にしておけばよいということになります。例えば、上司に逆らえばどこに飛ばされるかわかったものではない、といったような恐怖心を予め部下に植え付けておくことです。
もっとも、恐怖で支配するという、こうした上司の態度・行動は果たして優れたリーダーシップ・スタイルであると言えるでしょうか。現在ではハラスメントと見なされる可能性が高いですし、そもそも、部下は、そうした上司の下で意欲的に働くことはできないでしょう。リーダーシップは、部下のやる気を高めるために必要な機能なのですから、上辺だけ従っているふりをしている、部下の一見「調和的」に映る行動のみによって、リーダーシップが発揮されていると見なすことはできないのです。(初回掲載2010/07/05 補筆2023/04/05)