組織において、事業の成長と共に職務の専門化が進んでいくのが一般的です。例えば、中小企業であれば、総務課では総務の仕事以外に、経理や採用、研修、給与計算、福利厚生など、様々な業務を担当していることが多いものですが、大企業であればこれらの仕事は担当する各部門があるのが一般的であり、仕事の範囲は専門化されています。さらに、組織規模が大きくなると、事業別、地域別というように、さらに職務は細分化されていきます。仕事がどんどん細かくなると実は業務効率が悪化する方向へ向かいます。なぜなら、一つ一つの職務は周囲の仕事から完全に独立しているわけではなく、相互に関係し合っており、連絡調整の重要性が増していきます。例えば、人事と研修、人事と福利厚生は無関係に進められるものではありません。職務が細かくなるほど求められるコミュニケーション量は爆発的に増えることになります。したがって、大きな組織ほど(あまり自覚はないようですが)会議、ミーティングの回数や時間が増加したり、一人当たりのメールの量が増えていきます。また、私の見たところ、同じ仕事であっても組織規模が大きくなるほど書類の枚数も増えていくようです。一般的に中小企業よりも大企業の方が生産性は高いものですが、組織が大きくなることによる非効率も小さくはないように思われます。
また、働いている従業員の立場では、仕事が細かくなりすぎると、担当している仕事の意義を見いだしづらくなってくることも考えられます。仕事の意義を見いだしづらくなると、人は、あからさまな手抜きではないにせよ、少なくとも一生懸命には働かなくなります。そして、組織の規模が大きいが故に、その塵はあっという間に山になります。この山が大きな事故や不祥事につながっていく、などということもあながちあり得ない話ではありません。
製造業におけるセル生産方式は、それまで極度に専門化されていた職務を集約させるものでした。一人の従業員が一工程だけではなく、複数の工程を担当するようにしたのがセル生産方式の特色のひとつです。つまり、専門化の逆をやったわけです。セル生産方式では、ある工程において停滞が発生することがありますが、その場合は従業員同士がお互いにカバーし合い、臨機応変に分担を変化させることで全体の生産性が高めることができました。仕掛品の量が減りましたので、保管する倉庫もたくさん借りる必要がなくなったことからコスト削減にもつながりました。さらに、このセル生産方式では、副次的効果として従業員のヤル気が高まったことが想定外のメリットでした。それまで単純作業として一工程のみを担当していたのが、複数工程を担当することで仕事に変化が生まれ、仕事におもしろさが戻ってきたのです。そして、以前にはあまり味わったことのない、チームの中で協力し合うことの喜びを再確認することにもなりました。
つまり、セル生産方式は専門化の原則とは逆の割当を行うことで、能率の論理、コストの論理、情感の論理といった、組織における3つの論理のいずれの面においてもプラスに作用したわけです。
これらのことから得られる教訓は、管理職として部下に仕事を割り当てる際には、「作業」ではなく、「仕事」を割当てよ、ということです。小さな単位の仕事を繰り返し行えばそれは単に作業になってしまい、セクショナリズムに陥ったり、モチベーションの面においてもプラスの効果を望みにくいように思われます。しかし、職務の範囲が広がれば、部下が全体最適を意識しながら仕事を進めていくことが期待されます。(2023/03/19)