組織を有効に機能させていくためには、守るべき原則がいくつかあるとされています。代表的な組織原則は、①専門化の原則、②権限と責任一致の原則、③管理範囲適正化の原則、④命令一元化の原則 ⑤権限委譲の原則といったことです。
上記の内、いくつかの原則について、現実的な解釈を加えつつ考えて見たいと思います。まずは、専門化の原則からです。
専門化の原則とは、職務は類似した知識、技術、経験によって構成されているべきであるという原則です。職務の習熟度は、反復によって高まるため、職務範囲を狭く限定して繰り返し仕事をしていくことが能率と習熟の観点から効果的であるという考え方に基づいています。専門化の原則についての理解を助けるために、「バベッジの原理」を用いて説明してみましょう。バベッジとは、英国の数学者で、コンピュータの父と呼ばれた人です。簡単に言えば、バベッジの原理とは、仕事を専門化させる(分割する)ことによって、より多くの採用候補者が現れ、人件費を抑制させることが出来るという考え方です。
今ここに、A,B,C3種類の仕事がそれぞれ一人分ずつ発生しているとして、これら3種類の仕事を実行するために、3人の人材を雇うといった状況を想定してみましょう。3種類の仕事に対してどのように人を当てはめるべきでしょうか。一つの方法として、A,B,Cそれぞれの仕事に一人ずつ専門的に担当させる方法があります。専門化といった場合はこの方法が該当し、上述したメリットを享受することが出来ます。
1番目の人はAという仕事だけ、2番目の人はBだけ、3番目の人はCの仕事だけを学習すれば良く、他の2つの仕事に関する知識は不要ですので学習する時間を短縮できます。また、仕事の範囲が狭い一方で反復の回数は多くなりますから仕事に習熟しやすく、生産性を高めやすいというメリットがあるのです。つまり、「能率の論理」を満たすことになります。
もっとも、現実には専門化の原則とは異なるような職務割当をしているケースは決して珍しくはありません。一人の社員がA,B,Cいずれの仕事も担当しているようなケースです。この場合、自社で提供している製品・サービスがA,B,Cの3つであるとして、一人の社員が顧客に対して総合的な提案が出来るというメリットがありそうです。
さて、どちらの割当が望ましいのでしょうか。
ところで、3種類の仕事は、実は難易度が異なっています。Aという仕事はそれをこなすために90の能力が必要であり、Bという仕事は60の能力が必要で、Cという仕事は30の能力があればこなすことができるものとしましょう。この場合、人材の採用はどのようにおこなわれるべきでしょうか。専門化の原則を前提に考えれば、Aの仕事のみについて高学歴、高スキルの人材を採用し、Bの仕事については学歴やスキルの高さはさほどこだわる必要がなくなります。Cの仕事は、正社員を雇うまでもなく、アルバイト等の非正規社員の採用などで対応することが望ましいでしょう。ところが、専門化の原則によらない割当を前提にしますと、3人とも能力90の人を雇わなければなりません。でなければ、難易度が高いAの仕事をこなすことができないことになります。しかし、いずれも能力の高い人を雇わなければならないとすれば、まず、採用活動の難易度が上がってしまいます。
採用担当者にとっては高学歴・高スキルの人材を3人確保するよりも上記のような採用方法が仕事の能率を高めることになります。仮に高スキルの人材を3人採用できたとしても、通常、能力の高い人には高い給与で処遇しなければなりませんので、人件費も増加します。また、従業員からすれば、3種類の仕事いずれ人も習熟するためには時間がかかることになります。さらには、能力の高い人であれば、Aの仕事には満足するかもしれませんが、Cの仕事についてはつまらない仕事に感じてしまうかもしれません。このことは、従業員のモチベーション維持の観点において好ましいことではないでしょう。したがいまして、やはり、専門化の原則に則って、一つの仕事を一人の従業員が担当することにメリットがありそうです。
どうやら専門化の原則は「能率の論理」のみならず、「コストの論理」においても、そして、モチベーション維持の観点、すなわち「情感の論理」においても、有効性が高いようです。
とは言え、通常、専門化の度合は事業の規模が大きくなるにつれてさらに進んでいくことになります。専門化を進めて仕事の範囲をさらに狭めていけば能率、コスト、情感といった3つの要素にマイナスの作用がもたらされることがあります。(2023/03/19)