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No.4-9 部下育成の実態調査

 インテレッジでは、企業等に勤める管理職を対象に部下育成の実態に関する調査を行い、調査データと分析結果をまとめました。以下は同調査分析結果の抜粋です。

  詳細版「部下育成実態調査報告書2022」(無料)をご希望の方にはPDFデータにてお送りいたします。問い合わせフォームよりその旨ご連絡ください。

このページの内容

調査概要

調査の目的

 企業をはじめとする組織の管理職において、部下の育成は、重要かつ、場合によっては困難を伴う業務のひとつと考えられます。

 本調査は、組織における部下育成上の問題点を探ると共に、どのような管理者行動や組織特性が部下育成の効果と相関性があるのかを分析することにより、望ましいと考えられる管理職の部下育成行動を探ること、また、人事・教育研修担当者においては、組織開発上の課題を明らかにすることを目的として実施しました。

調査期間

 2020年6月1日~2021年12月16日

調査対象者

 当社講師による研修受講者(基本的に企業・自治体等の組織に勤める部下を持つ管理職。一部に経営者、理事者、管理職ではないが後輩を持つ中堅社員) 815人(回収データ数)

 回答者の所属する組織の従業員規模別は次の通りです。

 回答者の半数以上は従業員100名を超える規模の組織に勤めており、全体の1/4は300名超の大規模な組織に所属。

 20人以下の小規模組織に勤める回答者は12%、21人~50人以下の組織が17%、51人~100人の組織が18% 、101~300人の組織が28%、300人以上の組織が5%、1,000人以上の組織規模が20%という構成でした。

調査方式

webフォーマットへの入力。一部書式による記入提出

質問項目

①会社(団体、組織)の全従業員規模
②直属の部下の人数
③所管部門における新人から「一人前」になるまでに必要な年数
④勤務する会社(団体、組織)における人材育成・能力開発方針の明示の状況
⑤自身が行っている部下育成の方法
⑥部下の育成がうまくいっていると感じるかどうか
⑦部下育成がうまく行っている場合の理由
⑧部下育成がうまく行っていない場合の理由

管理職はどのように部下育成を行っているのか?

 部下育成の方法として最も多かったのが「相談に乗ったり、助言をする」(70%)で、次いで、「報告・連絡・相談の場面で指導する」が60%、「仕事を実際にやってみせる」が55%であり、他の選択項目を大きく上回っていました。特に最初の2項目については、日常的なコミュニケーションの重要性を示唆するものです。

 一方、「部下個々人の育成計画を作る」(12%)、「計画的に時間を取ってOJT(職場での指導育成)を行う」(15%)といった、いわゆるOJTの実行において必要とされる計画的な方法をもって部下育成に当たる回答者は少数でした。

 なお、本質問において留意すべき回答項目は、「人事面接の機会を活用して指導する」(27%)でしょう。回答者の47%は従業員規模100名以下の組織に所属しており、一般的にそれくらいの規模の組織においては人事面接が制度化されているケースは少ないと思われます。これを前提とすれば、人事面接を制度している組織の回答者のみを集計対象とした場合、この比率は50%を超えてくる可能性が推測されます。

部下育成はうまく行っているのか?

管理職の4割近くは部下育成がうまく行っていない

 部下の育成が「うまく行っている」と言い切れている回答は3%と少ないですが、「どちらかといえばうまく行っている」を含めると全体の半数以上は部下育成に一定の効果を見いだしているようです。一方、「うまく行っていない」、「どちらかといえばうまく行っていない」の合計は37%でした。

部下育成がうまく行っている管理職は部下とのコミュニケーションが良好である

 部下育成が「うまく行っている」、および、「どちらかといえばうまく行っている」と回答した人にその理由を訊ねてみると、「部下とのコミュニケーションが良好だから」(66%)が圧倒的に他の選択肢を引き離していました。そして、その内容には、部下育成の方法を訊ねた設問において回答が最も多かった「相談に乗ったり、助言をする」(70%)、次いで回答の多かった「報告・連絡・相談の場面で指導する」(60%)といった行動が含まれていると見ることができるでしょう。

 2番目に多かった「部下の学ぼうとする意欲が高いから」(44%)は、上司として直接影響を与えられる項目ではないものの、能力の向上には意欲の向上も前提となり得ることの認識は重要だと思われます。

  「指導すべき内容が明確になっているから」(42%) が、高めの比率となったのはやや意外な印象がありますが、そもそも、何を指導すべきかを定めることが部下育成の効果を高めるための大前提となりそうです。

 「人事面接を育成の機会として活用しているから」(19%)については留意が必要です。回答者の47%は従業員規模100名以下の組織に所属しており、一般的にそれくらいの規模の組織においては人事面接が制度化されているケースは少ないと考えられます。これを前提とすれば、人事面接を制度化している組織の回答者のみを集計対象とした場合、この比率は40%程度まで上昇するかもしれません。

 なお、「 OJT以外の研修が充実しているから」(3%)、「自己啓発支援制度が充実しているから」(1%)といった項目は部下育成の効果にプラスに寄与している認識は極めて低い状態でした。

部下育成がうまく行っていない管理職は指導するための時間とノウハウがない

 部下育成が「うまく行っていない」、および、「どちらかといえばうまく行っていない」と回答した人にその理由を訊ねてみると、「人的、時間的余裕がなくOJTの時間を確保できないから」(49%)がもっとも多く、2番目に「どのように教えるか、その方法が明確になっていないから」(46%)が続いていました。これら2項目は、他の項目よりも目立って比率が高くなっています。言ってみれば「いつやるのか=When」、 「どうやってやるのか=How」がOJTにおける大きなネックとなっているようです。

 3番目となったのが「指導すべき内容が明確になっていないから」(35%)です。これは「何を教えるのか=What」が不明瞭であり、「うまく行っている」「どちらかといえばうまく行っている」人たちがその理由の3番目に「指導すべき内容が明確になっているから」 (42%) をあげたことと対照的です。

 部下育成の効果を高めるためには、「When」、「How」、「What」の明確化が重要であることを示唆する結果と言えそうです。

部下育成がうまく行っている人とそうでない人の取り組みの差は何か?

 グラフは上段に、部下育成が「うまく行っている」、「どちらかといえばうまく行っている」とした回答者の取り組み比率を、下段に「どちらかといえばうまく行っていない」、「うまく行っていない」とした回答者の取り組み比率を、その差が大きい順番で表示しています。

 部下育成の方法として、「うまく行っている」回答群と「うまく行っていない」回答群の差が最も大きかったのが「相談に乗ったり、助言をする」で、14.7ポイントの差がついています。2番目が「報告・連絡・相談の場面で指導する」(12.3ポイントの差)でした。これら上位2項目は、日常的なコミュニケーションの重要性を示唆するもので、設問7において、部下育成がうまく行っている場合の理由として「部下とのコミュニケーションが良好だから」(66%)が最も多くあげられたことと整合的です。

 3番目以降には「仕事を実際にやってみせる」(10.2ポイントの差)、「後輩の指導を任せる」(9.9ポイントの差)、「必要と思われる時にその都度OJTを行う」(9.7ポイントの差)が続きます。また、「人事面接の機会を活用して指導する」ことも9.2ポイントの差がついており、人事面接制度は育成効果へのプラスの影響が期待できるしくみとして意義が認められそうです。

 一方、「現場への移動や出張時など、部下と同行する歳の移動時間を利用して指導する」(3.3ポイントの差)、「部下個々人の育成計画を作る」(4.2ポイントの差)、「計画的に時間を取ってOJT(職場での指導育成)を行う」(4.8ポイントの差)といった項目では、「うまく行っている」回答群と「うまく行っていない」回答群の差はあまり見られませんでした。

 もっとも、いずれの取り組み事項においても、それを実行している場合には、実行していない場合に比べて育成効果を実感しやすくなっています。当然のことながら、部下育成に限らず、成果を得るためには何らかの行動を具体的に実行することが必要であり、何らかの行動をとれば成果を得られる可能性が高まることを示していると言えるでしょう。

 OJTにおける指導技術は重要であるものの、部下との日常的なコミュニケーションの優先度を上げることが育成効果を高めるのかもしれません。

組織の規模が大きいほど部下育成の効果が高まる傾向

 組織の従業員規模と部下育成の効果には相関があるのでしょうか。

 緑色の系列が、部下育成が「うまく行っている」、「どちらかといえばうまく行っている」の合計、次の系列が「どちらかといえばうまく行っていない」、「うまく行っていない」の合計、3番目の系列が「わからない」、4番目の系列が「無回答」。

 データからは、21人以上の組織では、規模に比例して部下育成の効果が高まるという強い相関が見られます。回帰分析からは、21人以上の組織の場合、従業員が1名増加することにより育成効果が約0.028%上昇する結果が得られました。

 背景として推測されるのは、大規模な組織ほど人材育成方針が明確化されている傾向にあること、目標管理制度や人事考課制度をはじめとした人事管理のしくみが整えられていること、研修等能力向上のための取り組みが増加すること、優秀な人材を確保しやすいこと、労働生産性が高いために部下指導の時間確保が容易になりやすいことなどが育成効果に寄与している可能性です。

 一方、20人以下の小規模組織でも一定程度、効果の高さが確認できました。背景として推測されるのは、それぞれの従業員に対して経営者から目が届きやすいこと、社内コミュニケーションの密度が濃いことなどが育成効果に寄与している可能性です。

 本項目からは、組織が大規模であるか、反対に零細であることが育成効果にプラスの相関をもたらし得ることが確認できました。

直属部下の人数の多寡は育成効果に影響しない

 直属部下の人数と部下育成の効果には相関があるのでしょうか。

 部下の人数が少なければきめ細かい指導が可能となる一方、人数が多くなれば個々人とのコミュニケーションがとりづらくなることにより育成効果が低下するのではないか、という仮説に基づいて検証しましたが、上記データからは有意な差が見られず、直属部下の人数の多寡が育成効果に及ぼす相関は認められませんでした。

人材育成・能力開発方針の明示・浸透状況と部下育成の効果

人材育成・能力開発方針は多くの組織において明示されているが、組織内浸透度はやや低い

 回答者が勤務する会社(団体、組織)において、人材育成・能力開発方針が明示されている組織はどれくらいなのでしょうか。また、それが明示されている場合、組織内に浸透しているのでしょうか。

 人材育成・能力開発方針「明示されている」が64%を占めており、「明示されていない」組織は29%でした。  

 本調査は一定のコストをかけて従業員研修を組織内で実施している、または、外部の公開講座へ参加させている組織の従業員を対象としていることから、人材育成・能力開発方針が「明示されている」比率は高めになると推察されます。したがいまして、一般的に世の中の組織の大半が人材育成・能力開発方針を明示しているとは言い切れないことに留意が必要です。

 なお、「明示されている」組織群においてどの程度それが組織内に浸透しているかの認識度について訊ねたところ、「良く組織に浸透している」と言い切れているのは5%(全体母数の中では3%)にとどまりました。「あまり組織に浸透していない」と「組織に浸透していない」を合わせると「明示されている」組織群の中では半数以上を占めていました。

 もっとも、「ある程度組織に浸透している」との回答は39%(全体母数の中では25%)であり、4割以上の組織では、こうした人材育成方針がある程度機能していると見ることもできます。

人材育成・能力開発方針の組織内浸透度は組織規模に反比例

 人材育成・能力開発方針が明示されている組織において、それがどの程度組織に浸透してるか従業員規模別に集計してみました。

 人材育成・能力開発方針が「組織に良く浸透している」、および、「ある程度浸透している」を合計した回答比率は全体では44%ですが、従業員規模別に見てみると、最も浸透している比率が高いのが「20人以下」 (64%)の組織であり、「21~50人」(47%)が続きます。「51人~100人」 と「101~300人」では39%に低下し、「301人以上」においても42%と同程度にとどまっていました。人材育成・能力開発方針の浸透度は、100名規模の組織までは、組織規模に反比例するという強い逆相関が見られました。回帰分析からは、従業員が1名増加すると人材育成・能力開発方針の組織浸透度が約0.37%低下する結果が得られました。ただし、 100人を超える組織ではこの逆相関はなくなります。

 組織規模が大きい場合には様々な制度やしくみが整備されている割合が高まると考えられますが、大組織では法令順守が要求される事項が多岐にわたっていることや、多くのルールが設定されていることから、一つひとつの制度やルールにきめ細かい対応がしづらい、あるいは、様々な制度・ルールの中でも人材育成・能力開発方針のようなものは軽視されがちという可能性もあります。また、事業内容が複数から構成されていたり、支店が多く、地理的に分散している、組織階層が多段階であったりするなど、組織内部でのコミュニケーションが十分にとりづらいといったことの影響も考えられるでしょう。

 一方、小規模組織では、経営層の考え方を浸透させやすいことを、小規模であるが故のメリットとして活かしていく発想が重要です。

人材育成・能力開発方針の組織内浸透度が高ければ部下育成効果は高い

 人材育成・能力開発方針の明示の有無が部下育成の効果と相関するのかについて分析してみました。

 人材育成・能力開発方針が明示されている組織群では部下育成が「うまく行っている」、「どちらかといえばうまく行っている」の合計割合が59%であることに対して、明示されていない組織群では46%と、部下育成の効果が明らかに大きく異なることがわかりました。

 さらに、人材育成・能力開発方針が明示されている組織において、その浸透度が部下育成の効果と相関するのかについて分析してみました。

 人材育成・能力開発方針の組織内に浸透している度合いによって育成効果は大きく異なっています。良く浸透している組織群では85%が効果を上げていることに対して、浸透していない組織群では48%と大きな違いが確認できました。そして、浸透していない組織群の場合は、同方針が明示されていない場合の比率とほとんど差がなく、方針を定めるだけで浸透させていなければ、育成効果は方針を定めていない場合と同じ程度にとどまることになります。

 したがいまして、部下育成の効果においては、人材育成・能力開発方針の明示の有無自体よりも、同方針が浸透していると感じられる度合いの高さが重要であると言えるでしょう。

 こうした人材開発方針は単なる飾りではなく、組織内に浸透させることによって、人材開発を促進する実質的な意義を持ち得る可能性がありそうです。

まとめ

  • 管理職の37%は部下育成がうまく行っていない。
  • 部下育成がうまく行っている管理職は、部下とのコミュニケーションが良好である。また、指導すべき内容が明確になっている。
  • 部下育成がうまく行っていない管理職は、指導するための時間の捻出ができていない。また、指導の方法と内容が定まっていない。
  • 部下育成がうまく行っている管理職は、うまく行っていない管理職と比べると「相談に乗ったり、助言をする」、「報告・連絡・相談の場面で指導する」、「仕事を実際にやってみせる」、「後輩の指導を任せる」、「必要と思われる時にその都度OJTを行う」、「人事面接の機会を活用して指導する」などといった育成行動を行っている割合が高い。
  • 組織の規模が大きいほど育成効果が高まる傾向が見られ、21人以上の組織では従業員が1名増加することにより育成効果は約0.028%上昇する。一方、20名以下の小規模組織においては、むしろ、中規模組織よりも高い育成効果を実現している。
  • 直属部下の人数の多寡は、育成効果に影響しない。
  • 人材育成・能力開発方針の組織内浸透度は、100名規模の組織までは組織規模に反比例し、従業員が1名増加することにより約0.37%低下する。ただし、100人を超える組織では浸透度に大きな差はない。
  • 人材育成・能力開発方針の組織内浸透度が高ければ部下育成効果は高い。

 詳細版「部下育成実態調査報告書2022」(無料)をご希望の方にはPDFデータにてお送りいたします。問い合わせフォームよりその旨ご連絡ください。


  • 本調査は全国規模の調査ではなく、回答者には地域的な偏りがあります。
  • 回答者の所属組織は、研修を自組織内において実施する、または、公開講座へ社員・職員を派遣している企業(団体・組織)であり、母集団全体として一定程度の人材育成の取り組みが行われている組織であることに留意してください。
  • 集計分析は設問項目間の因果関係を断定的に特定するものではなく、あくまでも相関の強さから望ましい属性や行動の有効性についての可能性を検討したものです。
  • 回帰分析の結果は前提条件により変動します。
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