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No.4-5 OJTにおける手法的・心理的障壁に対処する

暗黙知を形式知に変換する

 部下育成を効果的かつ効率的に進めるためには、仕事の知識・技術を形式知として伝えることが必要です。教わる側が暗黙知を自ら獲得してくれればよいのですが、この方法だと知識の獲得に時間がかかりますし、そもそも、知識を習得しようとする意欲の高さには、人によって差があると考えられます。
 では、暗黙知を形式知に変換するというのは、例えばどのようなことでしょうか? これは、個別性の高い仕事の例で説明するよりも、スポーツの例で説明する方が普遍的でわかりやすいと思います。

 私は高校生の時サッカー部に所属していました。部員は中学時代からサッカーをやっていた学生がほとんどで、高校に入ってからサッカーを始めた私は部の中でも最も技術的に未熟でした。毎日練習を繰り返している内にある程度上達しましたが、なかなか、身につかなかったのはコーナーキックです。いくら渾身の力を込めて蹴っても、ゴール前で待っている見方の選手の頭に合わせられるほどの距離が出ないのです。ゴールの手前でボールが落ちてしまいます。どうすればうまく蹴られるのか、それをできる人に尋ねてみますが、昔はサッカーに限らず、スポーツの多くが暗黙知によって技術を習得している割合が高く、なかなか、形式知を返してくれる人は多くありませんでした。ですから、コーナーキックの技術を身につけられたのはしばらく後のことでした。
 ある時、練習試合の中で、コーナーキックではありませんが、ほぼコーナーの地点からけり込んだ私のセンタリングは、ゴール前に攻め込んだ見方の選手の頭にぴったりと合いました。このときの蹴り足は左足です。私は蹴り足が右利きですから、右から蹴る方が力を込められるはずですが、なぜ力が入らない方の足で蹴ることが上手なプレーにつながったのか?そのときのことをよく思い出してみると、足首の角度が違っていることがわかりました。シュートを打つときは足首をなるべくまっすぐに伸ばして甲を堅くすることによって勢いのあるボールを飛ばすことができますが、実は、遠くまでボールを蹴るときには足首が少し曲がっているくらいの方がよいのです。足首が曲がった状態でボールを蹴ると、ボールに引っかかるような感触があります。この引っかかりはボールに後ろ向きの回転を加えることになります。飛んでいるボールに後ろ向きの回転を与えると浮力が発生します。浮力があるということは落ちて来づらいわけで、結果的にボールが遠くまで飛ぶことになります。つまり、遠くまでボールを蹴るのは必ずしも力によるものではなかったのです。これがサッカーにおいてコーナーキックを蹴るための形式知です。この形式知を知っているかどうかで上達のスピードは大きく変わってくるはずです。

 ですから、人を短期間に育てるためには形式知を伝えることが有効なのです。(初回掲載 2009/10/07)

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