「コンサルティング」にエンゲージメント向上支援プログラムを掲載しました

No.3-7 インプットの再設定

 インプット=アウトプット/効率という公式から、インプット(=取り組み事項や働く時間の長さ)を少なくするためには、分子であるアウトプットを小さくするか、分母である効率を高める、と言うことになります。アウトプットは売上や利益、生産量、販売量など、組織としての業績ですから、通常の企業であればそれを小さくするわけにはきません。と言うことは、効率を高める(=新たなHowに切り替える)ことを優先する必要がありそうです。しかし、実は最初にHowを考えることは、それこそ効率的ではありません。なぜなら、どんな組織でも現在のインプット(=What)の中には無用なことがたくさんあるからです。やらなくても良いが、やった方が良いだろうという仕事です。そのような、「保険」的な取り組みをやめてしまう方が、新たなHowを考えるよりも手っ取り早いはずです。

タリン空港(エストニア) 日本の空港との違いは?

 インバウンド観光客の増加に代表されるように、日本の製品、サービスの質の高さには確かなものがあります。しかし、(価格の割には)質が高すぎると言う過剰サービスの側面も指摘されています。90点の出来を100点満点に引き上げるためにはかなりの取り組みと時間を要することになるでしょう。労働生産性の高さを世界的に比較したデータを見ると、アイルランド、ルクセンブルク、ノルウェー、デンマーク、ベルギーといった国がランキングの上位に来ます。これらの国に共通しているのは人口が少ないことです。ベルギーは1千万人以上の人口を擁しますが、アイルランド、ノルウェー、デンマークはそれぞれ5百万人台でルクセンブルクは70万人に満たない国です。これらの国において、生産性が高い一方で、サービスの水準がずば抜けているかというと、必ずしもそうとは言えないようです。

 ノルウェーのカフェでは従業員の数が最低限であるため、飲み物を注文しようにも結構な時間がかかると言う話を聞いたことがあります。そもそも、人手が足りませんから、人手に頼るような仕事の仕方はできないのではないでしょうか。

 スーパーマーケットのレジでは、日本であれば店員さんが商品をカゴに詰めてくれますが、そのようなことはどの国でもないように思います。(ついでに言えば外国のスーパーマーケットのレジでは椅子があって、店員さんは座って仕事をしていることが多いです。)

 以前、訪れたエストニアの首都タリンの空港では、駐機場を歩いて飛行機に搭乗したのですが、日本とは大きな違いがあり、ちょっとした衝撃を覚えたことがあります。日本においては、乗客に駐機場を歩かせる場合には5名くらいの従業員が誘導します(空港業務を所管している役所の職員に聞きましたが、国交省の指導に基づくルールのようです)。しかし、当地ではそのようなスタッフはいませんでした。思い出してみると、ヘルシンキ空港でもそのようなスタッフはいなかったと思います。(国際線ではボーディングブリッジを使用するのが一般的で、駐機場を歩くことは滅多にありませんのでその他の国の事情はわかりません。)日本は、人口が減少しているとは言え、1億人以上が住む国です。諸外国に比べると、ある意味人海戦術的に品質を高めて来た面が思いのほか大きかったのかもしれません。製品・サービスの品質水準を向上させることはもちろん重要なことではありますが、人手不足の状況下では、やらなくて良いことはやらないという考え方の優先度を上げていくことが必要でしょう。

 会議資料を見やすくするためにデータを加工して掲載すれば見栄えは良くなりますが、生データをそのまま使えば加工に要する時間を節約できます。販促用のチラシのデザインを抜本的に刷新するよりも、既存のものを修正する方が早いでしょう。私が依頼される講師業務のケースで言うと、メールのやりとりを2、3回する程度で開催が決まるケースもあれば、5往復以上のメールと依頼書、実施要領、承諾書、振込依頼書、誓約書など、何枚もの書類を郵送してくるケースもあります。どちらも業務品質に基本的な違いはありません。会社の事業単位で考えれば、宅配会社が12時から14時まで、および、20時以降の配達枠をなくす、というのはインプットの削減に該当します。また、これまで24時間営業をしていたスーパーやファミリーレストランが深夜営業を取りやめる、年中無休であった旅館が週休3日にする、などといったこともそうです。そして、興味深いのはインプットを減らした一方で、アウトプットが減少したかというとそうではなく、むしろ、増加しているケースすら見られることです。あるレストランチェーンは24時間営業を取りやめてから売上は増加し、水道光熱費や人件費の削減効果もあって利益率も向上しました。また、ある旅館では営業日を短縮して以降、売上も利益も大幅に増加し、従業員給与は4割も引き上げることができたそうです。(もちろん、サービスの質を高める様々な取り組みはなされているであろうとは思います。)

 業務改善の着手に当たっては、Howを考える前にWhatに焦点を当てることです。そして、やるべきWhatとやらなくても良いWhatを見極めるためには何が必要になるか。それはWhy、つまり、仕事の本来的な目的、その仕事の意義を再確認することです。やはり、Whyが出発点になります。
 (初回掲載 2017/08/08 一部修正2023/11/27)

このページの内容