仕事を遂行する過程で部下に仕事を教えていくことをOJT(On The Job Training)と言います。多くの経営組織では、OJTを重要な社員教育の手段として挙げています。ところが、はたしてOJTはうまく機能していると言えるのでしょうか。残念ながら、OJTがうまくいっているという話を聞くことは多くありません。むしろ、うまくいかないことについて相談を受けることの方が多いのが実態です。特に、非製造業にその傾向が顕著であるように思えます。
生産性が低いと指摘されるわが国においても、こと、製造業に関して言えば世界的に見ても高い生産性を実現してきました。その一因として、仕事のコツや秘訣、カン、経験による知識などを言葉として明確に表現し、それが、ベテランから若手に承継されてきたことが挙げられます。ところが、非製造業、特に、ホワイトカラーの世界では、仕事が目に見えにくいことや、IT化によって仕事が効率化されたという思いこみなどから、ベテランの持つ仕事上の技術が若手に伝えられてこなかったのではないでしょうか。
そもそも、OJTは、その重要性を全社的に認識した上で、よほど計画的に取り組んでいかない限り実行されにくい性質があります。OJTがうまくいかないのはなぜでしょうか。
- 管理職の多くは、プレーイングマネジャーであることが一般的となったため、上司が自分の実務に忙しくて部下の面倒を見る時間を優先的に取ろうとしない
- 十分な人的配置が行われないことによって、教えられる部下の側も忙しく、上司の指導をじっくり受けることが困難となっている
- 景気低迷による採用抑制や、アウトソーシングの普及、雇用形態の多様化などにより、現代の管理職自身が後輩を持った経験が少なく、教えるという経験値に乏しいと同時に、若手にどう接したらよいのかという戸惑いがある
- 現代の管理職は、経済的時代背景から、拡大局面よりも収縮局面における仕事経験が中心であったため、仕事を広げるという面での経験が不足している。一方で、技術の進歩や顧客ニーズの変化などが激しく、管理職にとって未知の問題が増えている
などといったことが、OJTがうまくいかない原因として挙げられるでしょう。最初の二つは時間的・人員的余裕のなさとしてまとめることができます。言わば時間的障壁です。また、後の二つはノウハウを伝えるノウハウがないというように表現できるでしょう。これは手法的障壁と言えます。教え方がわからないと心理的にも億劫になってしまいますので、言わば手法的・心理的障壁と言うことになります。
とはいえ、社員の能力向上のためには、知識や技術の伝承が必要ですし、OJTを全く行わないわけにはいきません。
どうすればOJTがうまくいくかを考えていくことにしましょう。(初回掲載 2009/06/21 補筆2023/03/31)