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No.7-1 議論の活発さとチームワークの維持

 下の図は、組織の意思決定における議論の活発さと、チームワークの維持の程度をマトリックス化したものです。つまり、一生懸命議論を尽くそうとしているかどうかの度合いと、チームワークを維持しながら相互に配慮しているかどうかという度合いのマトリックスです。

Aが理想的。では、BとCとではどちらが望ましいでしょう?

 Aの状態は、一生懸命議論しつつ、チームワークも維持されていますから、これが最良の状態ですね。一方、Dの状態は、その反対で最悪の状態です。ですが、現実にはAの状態を実現することは難しそうに思えます。なぜなら、議論を活発化させれば、お互いに否定的表現が多くなったり、視点の違いによる対立も増えたりすると考えられるためです。かといって、Dの状態の組織もそう多くはないでしょう。では、一生懸命議論しているが、人間関係が悪くなりそうなBの状態と、反対に、あまり議論はしないが、人間関係は良いというCの状態を比べてみた場合、あえて選ぶなら、どちらが望ましい状態であると言えるでしょうか。

 あなたは、Bを選びますか?それともCでしょうか? 

 Bを選ぶか、Cを選ぶべきかについては、一見答えがなさそうな気がしますが、答えは明確です。それは、Bを選ぶべきと言うことです。つまり、人間関係に波風が立つことを恐れて議論の程度を低めてはならないのです。意思決定の有効性を高めるためには、まずは、決定の質を高めることから始めるべきでしょう。そのためには、十分な議論を行って、お互いの持つ情報や知識、視点を引き出し合う、つまり、十分な「発散」を行う必要があるのです。時には、対立によりスムーズな意思決定が阻害されたり、議論が行き詰まったりすることもあるかもしれません。しかし、そうした状況においてこそ、管理職としてリーダーシップを発揮していく場面です。適切にコミュニケーションを促していけば、集団の和を維持することは可能です(これは、Bの状態ではなく、Aの状態と言うことになりますが・・・)。

 Cを選ぶ人は、他者との対立を避けることを優先する、つまり、葛藤回避の傾向が強いのかもしれません。確かに、誰しも人間関係を良好に維持したいものですが、こうした葛藤回避は、メンバー相互の知的資源を十分に活用できないという点において、むしろ、弊害にもなり得ます。自分のアイデアが組織の意思決定に反映された時、人は満足感を覚えるものです。そして、お互いの持つ知識や能力、視点などの資源を十分に活用し合った結果として新たな枠組みを共に築いて行く事ができれば、そこに協働の喜びがあるはずです。そうした創造的な関係こそが、職業上における真の人間関係というべきものではないでしょうか。また、十分な議論をしないと言うことは、問題を先送りすることになりかねず、問題を解決できないことの欲求不満が鬱積していくことにもなりかねません。

 管理職ともなれば、ここは、考え方を切り換えたいところです。部下の反発を恐れたりするあまり、人間関係を優先することには問題があります。むしろ、議論を活発化させることが管理職の役割の一つであると認識することが重要です。

 もっとも、Cを選択することは世の中の一般的な姿勢であるようです。先の質問を、これまで、多くの研修受講生に投げかけてきましたが、Cを選択する人が圧倒的に多いのが事実です。おもしろいことに、この答え方には組織特性や階層による回答傾向の相違があります。例えば、企業と自治体などの公的セクターを比べてみますととでは、企業の方がBに手を挙げる人の割合が高く、また、管理職クラスと一般社員クラスとでは、管理職の方がBに手を挙げる人の割合は高くなります。係長、課長、部長というように、組織階層が上に行くほどBの比率は高まります。正確な統計を取っている訳ではないのですが、民間企業の部長クラスでは、7~8割程度がBを選びますが、一般社員クラスでBを選ぶのは、2~3割程度となります。公務員の場合、部長クラスでは5~6割程度がBを選び、一般職員でBを選択するのは1割程度と言ったところです。

 Bか、Cかという二者択一で考えてきましたが、もちろん、Aの状態が最良であることは言うまでもありません。(初回掲載 2009/07/09 補筆2023/04/13)

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