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No.6-11 進捗状況と成果の度合に応じたフィードバック

 前稿まで、フィードバックすべき部下の行動における10段階と、管理職からのフィードバック方法の10段階を見てきましたが、ここではそれらの組み合わせと表現の例を考えて見ましょう。それぞれ10段階になっていますが、必ずしも1対1の対応関係になるとは限りません。部下の行動のひとつに対して複数のフィードバック方法を用いることが必要な場面もありますし、ひとつのフィードバック方法を複数の行動段階へ適用させることも考えられます。なお、ここでは、部下の職務におけるプロセス上でのやりとりと、職務の結果に対するフィードバックの両面で提示していきます。

  • 状況1 卓越した状況
    プロセス上でのフィードバック: 称賛「○○さん、すごいね!」
    結果に対するフィードバック: 称賛「素晴らしい!あなたの仕事ぶりには驚かされるよ」

    卓越した状況というのはそう頻繁にあるものではないでしょう。ここは、最大限の賛辞を表現したいところです。

  • 状況2 期待以上の状況
    プロセス上でのフィードバック:承認「いいね、いいね!」
    結果に対するフィードバック:承認「あなたの○○力はたいしたものだね!」

    やはり、ここでも明確な承認が必要です。なお、褒めるというのは相手を心理的に持ち上げて気分を良くさせる効果がありますが、褒めることのねらいはそれだけではありません。褒めることには、その行動が正しいと言うことを改めて認識させること、あるいは、成功法則を蓄積させる効果があります。

  • 状況3 標準的な状況
    プロセス上でのフィードバック:承認「なかなか、良い感じだね」
    結果に対するフィードバック:承認「次回も期待しているよ」

    可もなく不可もなくと言う状況ですと、これと言った反応を返していないことが多くはないでしょうか。求められている役割を果たせているのであれば、やはり、それには承認を与えるべきです。ただし、90点の仕事に対してあたかも100満点であるかのような手放しの褒め方は避けるべきでしょう。

  • 状況4 標準をやや下回りそうな状況
    プロセス上でのフィードバック:見守り(口出ししない)
    結果に対するフィードバック:質問「次回はどのようにする?」

    あくまでも、部下が主体的に、真面目に取り組んでいるという前提ですが、特に他者に対して迷惑を及ぼすレベルでない限り、上司としては口出しを控えたいところです。口出ししないと言うことは、行動修正を促す効果も低いかもしれませんが、ここでは部下の有能感、自己決定感の維持を優先しましょう。ただし、結果的に標準を下回ったのであれば、次回に向けた改善策について訊ねてみることが必要です。

  • 状況5 軽度の支障が見込まれる状況
    プロセス上でのフィードバック:事実の伝達「予定より1ヶ月遅れているね」
    結果に対するフィードバック:質問「次回はどんな風にしたら良いと思う?」

    プロセス上においては、主観としての評価を伝えるのではなく、望ましさからの客観的なズレのみを指摘します。人にもよりますが、それだけで気づきを促し、自己修正に繋がる可能性はあります。そして、結果的に支障が生じてしまったのであれば、状況4同様、次回に向けた改善策について訊ねてみることが必要です。

  • 状況6 中程度の支障が見込まれる状況
    プロセス上でのフィードバック:質問「~の場合はどのように対処する?」
    結果に対するフィードバック:質問「次回はどんな風にしたら良いと思う?」

    このくらいの段階になりますと、直ちに行動修正を要求したくなるかもしれませんが、部下によっては今後の対策をすでに考えている、もしくは、すでに手を打っていることもあります。したがいまして、いきなり提案や命令をするよりも、まずは部下の考えを聞いてみましょう。もし、部下が特に対策を考えていないようであれば次の段階へ進みます。

  • 状況7 明確な支障が見込まれる状況
    プロセス上でのフィードバック:疑問「~になる可能性が高いと思われるが、その場合どう対処する?」
    結果に対するフィードバック:質問「次回はどんな風にしたら良いと思う?」

    この段階まで来ますと、ある程度否定的なフィードバックが必要になってきます。ただし、完全に否定する前に予測される障害を示した上で対処策を訊ねてみましょう。ここでも部下の自己決定感は維持したいところです。

  • 状況8 事故レベルの支障が見込まれる状況(ケアレスミスによる場合)
    プロセス上でのフィードバック:見守り (口出ししない)
    結果に対するフィードバック:励まし「次回、取り戻してね」

    優秀な社員であっても、時にはミスをします。反省すべき事は本人が一番よくわかっているのですから、一々上司が叱るまでもありません。むしろ、結果に対しては励ましてあげる位の度量を見せたいところです。

  • 状況9 事故レベルの支障が見込まれる状況(無知、無能による場合)
    プロセス上でのフィードバック:注意「~すると、~になっちゃうよね?」もしくは提案「~することが必要じゃないかな」
    結果に対するフィードバック:質問「次回はどんな風にしたら良いと思う?」もしくは提案「こうしたらどう?」

    ここでは、明らかに指導が必要となってきます。ただし、最初から否定的な言動をぶつけるよりも、まずは予測を聞かせて注意しましょう。それでも、自己修正ができないようであれば提案が必要となります。結果に対するフィードバックでも部下の考えから聞いてみることが望まれます。

  • 状況10 事故レベルの支障が見込まれる状況(鈍感、怠惰による場合)
    プロセス上でのフィードバック:叱責「~しなければ、お客様に大きな迷惑をかけてしまうかもしれないよ!」および命令「直ちに~しなさい」
    結果に対するフィードバック:質問「次回はどんな風にしたら良いと思う?」もしくは命令「次回は~するべきだよ」

    最終手段の叱責が必要なレベルです。有能感、自己決定感は低下するでしょうが、すでにそれらを優先できる状況ではありません。もっとも、結果的に大きな支障が起きた場合には、本人自身も反省していることが普通ですから、結果に対するフィードバックとしては、命令の前に質問をして見ることが望ましいでしょう。
    なお、最近は部下を叱ることのできない管理職が多いと良く耳にしますが、叱るべきは叱らないと、他の部下の意欲をそぐことになりかねません。

以上が状況に応じたフィードバックの方法です。状況のレベルとフィードバックのレベルが合致していれば部下の受容度や心理的安全性は維持できるでしょうし、業績への影響もコントロールしやすくなります。

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