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No.6-5 実行段階のコミュニケーション ~自分の知らないことを教える

上司にとって既知の問題

 人に何かを教える場合、通常はコミュニケーションを通して行うことが一般的です。難易度の高い仕事であれば、相手がわかりやすいように表現する必要があります。とはいえ、仕事を教えていく方法としては、常に上司から部下に対して答えを与えるのがよいのかというとそうではないと思います。できるだけ、本人に考えさせた方が、仕事に対する主体性が高まりますし、仕事の習熟も早いのではないかと考えられます。ですから、人にものごとを教えていくときは、相手に質問をすることによって導いていく考え方が有効です。「どうすればうまく行くと思う?」というような感じです。

 なお、中には形式知(言葉で言い表すことのできる知識)に変換しなければ伝わらない暗黙的な知識・技術というものもありますので、特に仕事の秘訣を伝えていく際のコミュニケーション技術は難易度の高いものになります。こうした場合、まずは、暗黙知の形式知化から始めることになります。

上司にとって未知の問題

 部下育成というと、育成項目に関して上司自身が理解していることが前提のように思えます。しかし、部下が身につけなければならない知識・技術のすべてを上司がわかっているケースはそう多くないと考えられます。なぜなら、上司自身がその分野の仕事に長年関わっているわけではないという場合もあるでしょうし、仮に、その仕事に関わっていた経験があるとしても、その経験が今日においても活かせるとは限らないからです。時代環境変化は早く、今の若い部下は、現在の管理職が経験したことのない仕事のやり方を求められていると考える方が自然です。つまり、昔は存在しなかったような製品やサービスを、昔とは違ったタイプの顧客に、昔とは違う提供の仕方で提供しているのです。環境変化要因を考慮すれば、部下育成の対象事項において上司にとって未知の領域が増えている蓋然性は高いといえるでしょう。したがって、自分の知らないことについて部下育成をしなければならないのです。しかし、自分の知らないことを他人に教えられるものでしょうか?
 そこで、有効になる考え方がピア・ディスカッションです。「ピア」というのは「対等な」という意味です。教えてやる、という姿勢ではなく、共に考えようと言うことです。どうしたらうまく行くか、一緒に考えて共に形式知を導き出そうとする方法です。
 管理職という立場は、部下よりも様々なことに精通していなくてはいけないという固定観念を持っている人は多いかもしれませんが、時代環境変化の速さを鑑みるに、そのような考えはむしろ不自然なのかもしれません。管理職においても、未知の領域が大きくて当然なのだと割り切ってしまう方が、部下への対応がより有効になっていくような気がします。

(初回掲載 2010/1/26)

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